日タイのビザ制度比較(8)~永住権~

今回は永住権について日本とタイを比較してみます。

しかし、【永住権】という言葉はよく聞くけれど、そもそも【永住権】とは何なのか?

これは「万国共通の定義はない」と言っても良いでしょう。
というのも、外国人にどのような形で自国に在留する権利を与えるか(どのような条件で在留を許すか)は、国ごとに異なるためです。

あえて、誰もが持つような【永住権】に対するイメージを言葉にすると【外国人が自分の国籍を維持したまま、自国以外の特定の国に生涯住み続ける権利】という感じでしょうか。

ただ、タイの永住権についてパートナーから説明を受けた時、タイの永住権は、私達日本人が【権利】という言葉からイメージするほど強力で大きなメリットがあるものではないな、と感じました。

なぜかというと、日本の永住権はタイよりもはるかに外国人に幅広い権利と安定した地位を与えているからです。取得の条件や難易度はともかく、タイの永住権は消失しやすく、仕事の自由も得られず、正直、あまり安定感やメリットは感じられませんでした。

そのあたりのことも含め、日タイ両国の【永住権】について書いてみたいと思います。

まず前提として、日本で【永住権を持っている】という場合、正確には【在留資格「永住者」を持っている】ということです。【在留資格】のことを俗に(このブログでも)ビザと呼ぶので、【永住者ビザ】を持っていると言い換えても良いかと思います。つまり、日本における永住権は、在留資格(ビザ)の一種ということになります。

ほかのビザには在留期限(ビザ期限)があり、どんなに長いビザでも5年に1度は更新をしなければならず、在留状況などの審査を受けなければなりませんが、永住ビザは期限のないビザです。

日本の在留資格制度の大原則は【一人一在留資格】・・つまり、一人の外国人が同時に保持するビザは一種類だけです。ですから、たとえ条件を満たしていても「技術・人文知識・国際業務」ビザと「永住者」ビザの両方を同時に保持する人は存在しません。

日本では、永住権保持者の証明は在留資格【永住者】の在留カードです。

在留資格【永住者】の在留カード


対してタイは、【永住権】というものがビザとは別物に規定されています。そしてタイの永住権は4つのビザ(就労ビザ・家族ビザ・専門家ビザ・投資ビザ)保持者のみ、申請すれば許可される可能性があります。つまり、タイで永住権を持っている外国人は、永住権と4つのうちどれか一つのビザを両方保持しているということになります。

そして、タイはビザと永住権が別物なので、永住権保持者であることを証明する永住許可証が別途付与されます。(発行に約19万バーツかかります ※2020年8月21日のレートで約64万円・・結構かかりますね)

永住許可証

 

では、まずは永住権の取得条件から見てみます。

条件は様々ありますが、書類上、一見して条件がすべてクリアされているからと言って必ず許可になるとは限らないのは日本もタイも同じです。

条件や書類は膨大でここに書き出すことは困難であるため、ここでは、これを満たせないなら申請しても無駄(不許可になる)だろうという大きな条件について見てみます。

◎条件1:居住年数

日本 タイ

一般的な就労ビザ:10年
日本人の配偶者等:1年(婚姻3年)
永住者の配偶者等:1年(婚姻3年)
定住者:5年
高度専門職(70ポイント以上):3年
高度専門職(80ポイント以上):1年

3年

 

日本は、継続在留10年以上を基本に、どのような目的・理由で日本に滞在しているか、またその人の持つスキルなどによって年数条件を緩めています。一度帰国してビザを取り直して再来日した場合は年数リセットされます。また、上記年数日本に住んでいたとしても、長期間日本を離れていたことがある場合は、「日本への定着性が薄い」という理由で不許可になることがあります。

さらに、日本は持っているビザの期間が少なくとも3年という条件があります。1年ビザの人は、何十年日本で生活していても永住権は取れません。

    ※3年ビザをもらう条件・目安については、こちらをご覧ください

    「日本人の配偶者等」ビザ・「永住者の配偶者等」ビザ
    「定住者」ビザ
    「技術・人文知識・国際業務」ビザ・「技能」ビザ・「企業内転勤」ビザ

タイは、原則継続在留3年以上です。一度帰国してビザを取り直した場合にリセットされるのは日本と同じです。ただ、リセットされても、過去の在留実績は審査の対象になる可能性はあります。

◎条件2:取得可能なビザの種類

日本 タイ
技能実習や留学、特定技能1号の人等、一部を除いてチャンスあり

就労(ノンイミグラントB)
投資(ノンイミグラントIB)
専門家(ノンイミグラントEX)
家族(ノンイミグラントO)

 

日本では、経済的に自立していない「留学」ビザや、帰国することが前提の「技能実習」ビザや「特定技能1号」ビザなどでは永住権のチャンスがありません。その他、「特定活動」ビザなど、個別に確認が必要なものもあります。

タイはチャンスがあるビザの種類が上記の4種に絞られています。

◎条件3:年齢

日本 タイ
制限なし 40歳以上(永住権者の子供を除く)

 

タイは年齢制限があり、40歳未満の人は申請できません。
40歳未満でも永住権者の子供は家族ビザに基づいた永住権を取得しますが、この子供の永住権は20歳で失効します。

日本は年齢の規定はありません。永住権者の子として永住権を得た子供は、再入国許可期限を超過してしまうか、一定の法律違反をしない限り永住権は一生維持されます。

両国の共通点として、高齢になって収入を失った場合(年金収入もない場合)は、事実上、永住権を取得するのはかなり難しくなります。日本には生活保護制度があり、一定の条件を満たした外国人も受給していますが、生活保護は収入があるとは認められず、永住権取得はほぼ不可能です。(生活保護では、そもそも3年ビザをもらうのが困難です)

◎条件4:申請時期・申請受理人数

日本 タイ
いつでも申請可能/人数制限なし 年に一度、約1か月間のみ受理(イミグレーションの判断による)/1回の受付定員100人

 

日本はいつでも申請可能です。年間の申請受理人数の上限設定もありません。自分が、永住権が取れる条件を満たしたと思えば好きな時に申請できます。入管が「今年はもうたくさん申請受理したから、もう受け付けない」ということもありません。

しかしタイは、申請時期は年に1回(イミグレーションの判断による)で、申請できるのは100人までです。申請したい人は早めにしっかり準備して100人枠に収まるように迅速な申請が必要になります。

◎条件5:語学力

日本 タイ
日本語力チェックなし 面接でタイ語力がチェックされる

 

日本では、永住権取得に際して日本語力のチェックはありません。(日本も帰化(国籍取得)の場合は日本語チェックがあります)
日本の永住権の申請は私たち行政書士が申請を代行することも可能ですし、面接もありません。申請後は、追加書類請求はあるかもしれませんが、基本的に結果を待つのみとなります。

これに対して、タイは本人が自分で申請しなければならず、申請後に呼び出しがあり、面接があります。これはタイ語で行われ、タイ語力のチェックを兼ねています。面接は担当者によっては複数回行われることもあります。タイ永住権を目指す場合は、ある程度のタイ語力は必須となります。

◎条件6:犯罪歴がないこと

日本・タイとも重要なポイントです。
タイでは、タイ国外での犯罪歴の有無も明確に審査対象となっており、申請時に申請者の国籍国の無犯罪証明書が必要になります。よく、「タイのオーバーステイは罰金で済む」という話を聞きます。しかし、ブラックリストに載るかどうかは出国時のイミグレーションの担当官の判断によるところが大きいですし、オーバーステイの期間が長期に亘っていたリ、何度も繰り返している場合などはブラックリストに載ってしまう可能性が高くなります。ブラックリストに載った場合は、永住権取得は極めて困難になります。自分がブラックリストに載っているかどうかは、イミグレーションで確認できます。

日本は申請者の国籍国の無犯罪証明書を求めていませんが、審査の際に日本国外の犯罪歴を調べている可能性は十分あります。また、日本ではオーバーステイ歴はすべて半永久的に記録が残ります。「オーバーステイ歴があれば永住権が取れない」というわけではありませんが、その程度や時期によって審査に大きなマイナスの影響があります。

◎条件7:収入

タイも日本も収入は重要なポイントですが、いくら収入があれば良いという金額は明示されていません。
日本の場合、就労ビザの人であれば、過去5年間、安定的に300万円以上の年収とよく言われていますが、絶対的な数字ではありません。家族構成などによって、これ以上で不許可になる場合がありますし、逆にこれ以下で許可になる人もいます。

◎条件8:納税等

タイも日本も主夫・主婦や子供で扶養を受けていない限り、納税や社会保険料の期限内の納付は必須となります。
日本では、領収書のコピーの提出を求められ、期限を過ぎてから納付していることが分かれば、それだけで不許可になることもあります。

ざっくりした条件は以上です。

次に、永住権を失う場合です。

先述のとおり、タイの永住権保持者は永住権を持つと同時に4つのうちどれか1つのビザを保持していることが基本であるため、タイは持っているビザに該当する活動や身分を失った場合(仕事を辞めたり、離婚した場合)・・言い換えれば、ビザを失った場合は永住権も失います。タイ人妻との結婚による「家族ビザ」の場合は、タイ人妻と死別した場合も永住権は消失します。

対して、日本は永住権イコール永住者ビザで、永住権を取得すると仕事からも身分関係からも自由になりますので、仕事を辞めたり、配偶者と離婚・死別したことで永住権を失うことはありません。この点、日本の永住権を取得した場合、日本に住み続けることについて、かなり安定しているといえます。

その他、両国に共通の永住権を喪失するケースは、

 ①再入国許可期限までに再入国をしなかった場合
 ②一定の法律違反を犯した場合

となります。

②の法律違反(ここでは義務を怠ったことも含む)のケースで、日本についてだけ、いわゆる重い刑法犯でなくても永住権を失い得る点について注意点として書き出します。

・虚偽申請・偽造書類でビザを取っていたことが分かった場合

 →そもそもウソから始まったということなので、当然です。虚偽の内容によっては「あなたは本当は誰なんですか?」ということにもなりますし、法律違反歴を隠していたことも疑われます(隠していたことがバレることもあります)

・居住地の届出を怠った場合・偽った場合

 →これで永住権取消になった私のお客様は今のところいませんが、永住権に限らず、これは全てのビザに適用される規定で、実際に「日本人の配偶者等」が(取消ではありませんが)更新不許可になった事例があるので注意が必要です。

 

他にも、永住権を失い得る日本における法律違反と、ひと口にいっても色々ありますが、ここでは割愛します。
殺人・傷害致死・麻薬・売春関係は日タイともまずアウトです。これらの法律違反(重犯罪)は、おそらく日本とタイ以外の国でも同様の扱いと思われます。

最後に、永住権取得のメリットを見てみます。

タイも日本も、永住権取得後はビザの更新が不要になります。更新が必要ということは、期限があるということで、うっかり忘れればオーバーステイになりますので、常に気をつけていなければなりませんし、期限が近付けば書類を集めたり、申請のために入管・イミグレーションへ足を運ぶという手間がかかるだけでなく、審査の結果、不許可になってビザを失う可能性のあるタイミングが定期的に訪れるということを意味します。更新が不要になるというのは、日タイともに永住権取得の最大のメリットと言えるでしょう。

このほか、日本では、永住権保持者は仕事が自由にできるようになります。例えば、タイ料理のコックとして【技能】ビザを持っている人は、永住権を取るまではタイ料理のコック以外の仕事ができませんが、永住権を取ればどんな仕事に従事することも可能になります。生活ができるのであれば、仕事をしないこともOKになります。この点、【日本人の配偶者等】ビザや【永住者の配偶者等】ビザ、【定住者】ビザを持っている人は、もともと自由に仕事ができるので、メリットと感じないかもしれません。しかし、日本人の配偶者として【日本人の配偶者等】ビザを持っている人や永住者の配偶者として【永住者の配偶者等】ビザを持っている人は、仕事に関してはもともと自由ですが、離婚すれば、ビザを失うリスクがあります。しかし、離婚前に永住権を取得していれば、離婚しても日本にそのまま滞在し続けることができます(ただし、永住権取得後すぐに離婚した場合は、そもそも結婚が本物だったか疑われる可能性はあります)

日本における永住権は、日本に住み続けるための安定感は、他のビザと比べて圧倒的と言えます。

上記について、タイの場合は、永住権を失う場合と内容が重複しますが、4つのビザを保持していることが前提の永住権であるため、例えばノンイミグラントBビザで永住権を持っている人が会社を辞めた場合、ノンイミグラントBビザが維持できなくなるため、永住権を失います。
つまり、就労ビザで永住権を持っている場合は、仕事を辞められないということになります。

また、タイ人と結婚して家族ビザ(ノンイミグラントOビザ)と永住権を持っている人が離婚した場合も永住権を失うので、永住権を維持するためには離婚できない、ということになります。

結婚していて仕事を辞める予定がある場合は家族ビザへ、離婚する可能性がある場合は、就労ビザ・投資ビザ・専門家ビザのいずれかのビザへあらかじめ変更し、ワークパーミットを取得しておかなければなりません。

日本と違い、タイでは永住権を取得しても、仕事(就労ビザ・ワークパーミット)や身分関係(結婚・離婚等)から自由になれないということになります。※就労ビザ・ワークパーミットが必要ということは、どんな仕事でもできるわけではないということです

このあたりが、私がタイの永住権のメリットが少ないと感じた理由です。

タイ永住権のメリットで、ビザ更新が不要になる以外の一番のメリットは90日レポートが不要になる点かもしれません。在住外国人にとって、90日ごとのこの届出は大きな負担になっているので、この点は大きいと思われます。

ただ、日本にはそもそも外国人が90日レポートを提出する義務がありません。

諸々、単純に比べるとタイの永住権は日本の永住権ほどのメリットはないと感じます。

いや、日本の永住権が恵まれすぎているのかな・・

 

タイ永住権取得を検討されている方は下記メール宛にご連絡ください。

(本ブログのお問い合わせフォームからも可能です)

タイ国パートナー(鈴木秀明)直メール:kunhide111@gmail.com ※タイ語・日本語可

 

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Author

福島(Fukushima) 竜太(Ryuta)
福島(Fukushima) 竜太(Ryuta)入管手続専門行政書士(Certified Administrative Procedures Legal Specialists/Immigration Consultant)
aroi行政書士事務所 代表行政書士(東京都行政書士会所属)
アジアランゲージセンター(株) 代表取締役
群馬県渋川市出身
大東文化大学国際関係学部(タイ語選択)卒業後、タイ・バンコクに2年間駐在
日本語教師・日本語学校事務(留学ビザ手続担当)を経て2009年10月行政書士登録

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