退去強制になるとき

外国人が何かやらかしてしまった・・それもちょっとしたことではなく、結構重い法律違反やオーバーステイなどで逮捕されたとき、よく「強制送還」という言葉を耳にすると思います。言葉としては、入管法で「退去強制」として退去強制事由・・こんなことすると退去強制です・・という条件・項目を列挙しているので、これに合わせて「退去強制」という言葉に統一します。

いったい、日本でどんなことをしたら外国人は退去強制になってしまうのか?

この退去強制事由は、実はかなりたくさんあります。が、これは退去強制をバンバンやりたいからではなく、きっちり退去強制事由に当てはまらない限り退去強制にはできない、当局の恣意的な判断では退去強制にはできないということを意味します。

退去強制は、人によっては当該外国人の人生を大きく変える処分なので、当然と言えば当然です。

ここでは、特に「長期のビザ持って日本に住んでいた外国人が退去強制になるケース」に絞って紹介したいと思います。もともとオーバーステイの人が捕まったとか、テロや日本政府の転覆を企てる団体に入っていたとか、国際約束関係で・・というケースは省略します。

短期滞在者や船などの乗員の一時寄港時とかもここでは触れません。日本にビザをもって長期滞在する人についてのみ、見てみます。

ざっくり表にすると以下になります。

※分かりやすくするため、条文の文言を変えたり一部省略したりしています

  該当する人 根拠条文
1 いつわりその他不正な手段で上陸許可を得ていたことが判明し、ビザ取消になった人 入管法24条二の二
2 活動系のビザ(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者以外のビザ)の人で、ビザに合致した活動をしていなかった、または合致しない活動をしていてしようとしていたためにビザ取消になった人 入管法24条二の三
3 「2」の人に対し、退去強制にせず出国までの時間を与えたにもかかわらず、期限までに出国しなかった人 入管法24条二の四
4 入管への申請で偽造変造文書を作成・使用したり、外国人に偽変造文書を提供したり、偽変造文書での申請をそそのかしたり、手伝ったりした人 入管法24条三
5

外国人に以下のような不法就労をさせたり、手伝ったり、そそのかしたりした人

 イ ビザに適合しない仕事させたり、仕事ができないビザの人やオーバーステイ・不法入国・不法上陸でビザがない人を雇う
 ロ 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと。
 ハ 外国人に不法就労活動をさせる行為やロに規定する行為に関しあっせんする

入管法24条三の四
6

在留カードを偽変造、偽変造したものを他人に提供、偽変造したものを受け取る、偽変造したものを所持する、偽変造のための設備や材料の準備、他人名義の在留カードの所持、自分名義の在留カードを他人に貸与・譲渡などをした人

入管法24条三の五
7 ビザに適合しない活動を専らしていたことが明らかと入管に認定された人 入管法24条四のイ
8 人身取引きを行った人、または人身取引きをそそのかしたり、手伝ったりした人 入管法24条四のハ
9

以下の旅券法違反により刑に処せられた人

 ・パスポートの偽変造
 ・他人名義のパスポートの借用、使用
 ・他人へのパスポートの貸与、譲渡など

入管法24条四のニ
10 集団密航者を入国させたり、集団密航者の入国に関与して刑に処せられた人 入管法24条四のホ
11 不法入国・上陸者をかくまったり逃走を助けたりして刑に処せられた人 入管法24条四のホ
12 ビザに適合しない活動で報酬を得ていたために、禁錮以上の刑に処せられた人 入管法24条四のへ
13 未成年の人で、長期3年を超える懲役又は禁錮に処せられた人 入管法24条四のト
14 薬物関連の法律に違反し、有罪判決を受けた人 入管法24条四のチ
15 無期または1年を超える懲役、もしくは禁固に処せられた人(執行猶予を除く) 入管法24条四のリ
16 売春またはその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事する人(人身売買の被害者は除く) 入管法24条四のヌ
17 他の外国人に不法入国・不法上陸を勧めたり、協力したり、そそのかしたりした人 入管法24条四のル
18

活動系のビザ(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者以外のビザ)の人で、以下に違反し懲役または禁錮に処せられた人

・刑法第2編12章(住居を侵す罪)
・刑法第2編16章(通貨偽造の罪)
・刑法第2編17章(文書偽造の罪)
・刑法第2編18章(有価証券偽造及び支払用カード電磁的記録に関する罪)
・刑法第2編19章(印章偽造の罪)
・刑法第2編23章(賭博及び富くじに関する罪)
・刑法第2編26章(殺人の罪)
・刑法第2編27章(傷害の罪)
・刑法第2編31章(逮捕及び監禁の罪)
・刑法第2編33章(略取、誘拐及び人身売買の罪)
・刑法第2編36章(窃盗及び強盗の罪)
・刑法第2編37章(詐欺及び恐喝の罪)もしくは第39章(盗品等に関する罪)の罪
・暴力行為等処罰に関する法律第1条、第1条ノ2もしくは3(刑法第222条または261条に係る部分を除く)の罪
・盗犯等の防止および処分に関する法律の罪
・特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律15条もしくは16条の罪
・自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条もしくは第六条第1項の罪

入管法24条四の二
19

以下により懲役刑に処せられた人

・虚偽の住居地の届出をした
・在留カードの住居地以外の記載事項変更について虚偽の届出をした
・所属機関の届出や配偶者の届出で虚偽の届出をした

入管法24条四の四
20

在留カードの受け取りや提示義務に違反して懲役に処せられた人

入管法24条四の四
21

外国籍への帰化や日本で生まれた外国籍の子どもで、60日以内に在留資格の取得手続きをしていない人

入管法24条七
22

難民認定を受け、後に虚偽の手段で認定を受けたことが発覚し、難民認定が取り消された人

入管法24条十

 

麻薬・売春・刑法は日本人でも重い犯罪ですし、書類に嘘を書いたり偽造したことが判明してビザが失われ、退去強制になることは何となくわかると思います。また、自分が嘘や偽変造をした場合だけでなく、偽変造をそそのかしたり、手伝った場合など、自分以外の外国人を巻き込んだ場合も対象になります。

在留カードやパスポートの偽造や行使を目的とした他人との貸し借りについては、当たり前ですが対象となっています。

その他、全般的に活動系のビザの人(永住・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者以外のビザの人)については厳しい項目が目立ちます。
例えば「18」で懲役または禁錮になった場合は、その期間が短くても執行猶予が付いても退去強制の対象になってしまいますが、身分系(永住・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者)は対象外です。「15」の「1年を超える懲役か禁錮」は身分系も活動系も両方対象ですが、窃盗で懲役6か月なら、「15」では身分系ビザの人も活動系ビザの人も対象外ですが、活動系ビザの人は「18」の方でひっかかるので、活動系ビザの人だけは退去強制事由にあたってしまいます。

入管法違反は直接他人の命を奪ったりけがをさせたり、財物を奪ったりしないものが多いこともあり、悪いことと知りつつ、つい違反してしまうことも多いです。例えば、人間関係で断れずについついオーバーステイの外国人を自分の経営する店で雇ってしまい、一緒に逮捕されてしまった・・というようなケースも、表の「5」に該当するので、退去強制になる可能性があります。

また、国によって車の飲酒運転に対する罪の重さや意識が違うので、飲酒運転での人身事故などは要注意です。

なお、上記に該当してしまったら、必ず退去強制になるというわけではありません。その後の手続きの過程で在留特別許可という形で継続在留が可能になる場合もあります。もともと永住権を持っていた外国人が傷害致死で懲役2年になりましたが、日本人配偶者がいたことと日本在住が長かったため、在留特別許可を得て日本人の配偶者等ビザを得て在留継続できている事例もあります。

しかし、退去強制事由に該当してしまい、在留特別許可も得られずに帰国した人は、その後日本に来ることはできるのか?

次は、そのあたりを見てみたいと思います。

 

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Author

福島(Fukushima) 竜太(Ryuta)
福島(Fukushima) 竜太(Ryuta)入管手続専門行政書士(Certified Administrative Procedures Legal Specialists/Immigration Consultant)
aroi行政書士事務所 代表行政書士(東京都行政書士会所属)
アジアランゲージセンター(株) 代表取締役
群馬県渋川市出身
大東文化大学国際関係学部(タイ語選択)卒業後、タイ・バンコクに2年間駐在
日本語教師・日本語学校事務(留学ビザ手続担当)を経て2009年10月行政書士登録

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